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トータル・フットボールの体現者

劇的な決勝戦の記憶も新しい、昨季のチャンピオンズリーグ。
PSVアイントホーフェンは、惜しくも準決勝でAC.ミランに破れたが、人々に与えた印象は、ファイナリストであるミラン及びリバプールに勝とも劣らないほど鮮烈なものだった。

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まず、準々決勝1stレグ、対リヨン戦。
敗色濃厚な中で貴重なアウェーゴールをあげ、勝負を引き分けに持ち込んだのはコクーだった。
そしてミランとの準決勝2ndレグ。
2点をリードしながらアウェーゴールを奪われ、窮地に立たされたチームを奮い立たせたのも、コクーだった。
コクーは、2点目に続き名手・ジダ(GK・ブラジル代表)から気迫の3点目を奪う活躍を見せたものの、1歩及ばず、アウェーゴールルール(得点が2倍に換算される)によるトータルスコア4-3で、PSVは惜しくも準決勝で散った。

しかし、この2つの試合でPSVは、チームバランスの良さと成熟度、何よりも勝者のメンタリティを見せてくれた。
そして、その中心となっていたのが、フィリップ・コクーである。

トータル・フットボールの体現者_c0040315_653611.jpgフィリップ・ジョン・ウィリアム・コクーは、オランダ、アイントホーフェン出身。
1970年10月29日生まれの現在34歳。
豊富な運動量と的確なポジショニング、ミドルレンジからのシュートが魅力的な守備的MFである。
ピッチの上を献身的に駆け回るその姿は、まさにオランダのトータル・フットボールを体現しているかのように映る。

トータル・フットボールとは、ある戦況を想定した場合の動き方を選手に教え込み、ポジションを流動的に変化させるフットボールの総称を指すらしい。
実は、明確な定義はなく、トータルフットボールと呼ばれるものを見た人の印象を総合すると、このような説明になるのだという。
この、トータル・フットボールは、ヨハン・クライフ擁する1970年代のオランダで生まれた。

最も特徴的なのは、ボールを持った選手の動きに連動し、周りの選手が動くことと、攻撃の選手も守備をするということ。
選手の動きの連動については、一人の選手の周りを取り囲むように、選手がポジションチェンジをする様を「渦巻き」と形容されていた。
また、前線からプレス(相手のボールを奪ったり、パスコースを塞ぐこと)をかけることは、後に開発されるゾーン・プレスに繋がっていく。

的確かつ変幻自在にポジションをチェンジし、単体で攻守のバランスに優れたコクーという選手は、まさにトータル・フットボールそのものなのである。

コクーは、一応は守備的MFとカテゴライズされているが、GK以外のほぼ全てのポジションをこなせる究極のユーティリティプレーヤーとして名高い。
しかし、コクーは特別テクニックに優れた選手というわけではない。それでも、コクーが希有な存在で有り続けられるのはのは、高い状況判断能力と強靱な肉体、強いメンタルににあると思われる。

トータル・フットボールの体現者_c0040315_675449.jpgコクーの技術面での役割は、ボールを持つ選手の意図を把握もしくは、その選手を最良のプレー選択へと導くことである。
もちろん、自ら攻撃を仕掛けたり、積極的にゴールを奪うこともあるが、彼の仕事の大半は、周りの選手を生かすことである。
そこで必要とされるのは、高い状況判断能力なのである。

また、周りの選手に動きを連動させることは、想像以上に体力を消耗する。
そのため、この役割を担うには消耗に耐え得る強靱な肉体が必要なのである。

さらに、コクーの最大の魅力は、メンタルの強さである。
先述のように、コクーは、大事な試合でチームを導くゴールをあげ続けている。
ヒディンク監督も、PSVの快進撃は、コクーの経験とメンタルの強さに支えられたものであるとして、称賛を送っている。

また、チームのために献身的に働くコクーは、派手さはなくともファンの心を打つ。
昨季まで所属したバルセロナでは、ファンから1番愛されたオランダ人選手がコクーだった。

ピッチを離れると、自分の幼い息子のボールさばきを、往年の名選手である、ロナルド・クーマンのようであると絶賛したり、PSV時代のチームメイトのロナウドとオランダ語やスペイン語を交えて話すなど、子煩悩で気さくな素顔が垣間見える。

2006年W杯予選もいよいよ佳境となり、コクー擁するオランダは、順調に勝ち進んでいる。
そして、その影には、34歳にして未だ衰えを知らないコクーの尽力がある。

ファンバステン監督が、扱いにくいベテラン選手を多く排除したにもかかわらず、コクーを残したのは、仲間割れによる自滅に悩まされてきたオランダにあって、コクーはチームの信頼を集めることが出来る貴重な選手だからであろう。
おそらく最後になるであろうW杯での、コクーの活躍に期待したい。
by kobo_natsu | 2005-06-17 06:09 | 選手