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アリゴ・サッキのターゲット(05/2/9)

アリゴ・サッキのターゲット(05/2/9)_c0040315_14115858.jpg先日、マドリーの統括ディレクターであるアリゴ・サッキ(左写真)は、イタリアで行われたセリエA(イタリア国内リーグ)ボローニャ VS A.S.ローマの試合を観戦していたらしい。その目的は、ボローニャとローマに在籍するダイヤの原石を発掘し、マドリーに持ち帰るためだという。

サッキは、イタリア出身、1946年生まれの58歳。80年代から、90年代初頭にかけて、ACミランを率いた名将である。いや、名将という言葉で片付けるのは恐れ多いほど、彼の遺したものは大きい。

彼はゾーンプレスという戦術を編み出し、ミランの黄金時代を築いた。彼の愛弟子には、フリット(現フェイエノールト監督)、ファンバステン(現オランダ代表監督)、ライカールト(現バルセロナ監督)がいる。

ゾーンプレスとは 

1. 前線と最終ラインをコンパクトに保ち、

2. 前線からプレッシャーをかけ、高い位置でボールを奪取。

3. 直ちに全員が攻撃に転じる。

という、モダンサッカーの基本的戦術である。

これだとかなり解りにくいので、簡単に説明させて頂くと、

1. 一番前にいる人(FW)と、一番後ろにいる人(DF)の位置を、常に近くに保ち、布陣全体の面積を狭くする。

2. そうして人口密度を高くすることによって、相手の動けるスペースを狭くし、FWの選手もプレス(相手からボールを奪ったり、パスコースを妨害する)をかけてボールを奪いに行く。

3. そして、ボール奪取に成功したら、全員がボールを運ぶ選手の動きに合わせて一体となり、ゴール目指して突き進む。

というものである。
この戦術の長所は、ゴールに一番近い選手(大概FW)が、ゴールに近い位置でボールを奪うことにより、ゴールに近い位置から無駄のない攻撃が展開できるというものである。
しかし他方で、選手同士の位置を常に一定に保つことが要求されるので、選手の個性が潰されてしまう、という短所もある。

ミランの監督を経て、イタリアの代表監督に就任したサッキは、94年W杯でロベルト・バッジオ(MF・昨シーズン限りで引退)擁するアズーリ(イタリア代表の愛称)を準優勝へ導いた。

しかし、ゾーンプレスという、極めて合理的でシステマチックな戦術ゆえに、ラウールの憧れの人でもある、偉大なるファンタジスタ・ロビー(R.バッジオ)にも自由を与えなかったため、バッジオ本人のみならず、イタリア国民からも批判を浴びて、94年W杯後に監督を辞任した。

その後サッカーは、ゾーンプレス→トップ下の発見による華麗な個人技サッカー(ジダン、ネドベド(MF・ユベントス、元チェコ代表)、フィーゴ(MF・マドリー、元ポルトガル代表)などの個性を生かしたサッカー)→個人技を潰し、肉弾戦でボールを奪う組織サッカー(EURO2004優勝のギリシャ)→ネオ・ゾーンプレス(ライカールト監督(バルセロナ)による、組織と個人技の融合サッカー)と変遷していったと理解している。
すなわち、未だ時を経て、アリゴ・サッキのゾーンプレスは生き続けているのだ。

そして、その偉大なるサッキは、現在マドリーの統括ディレクターという、マドリーにおける、選手の獲得に関する最高責任者という職に就いている。
サッキは、先述の功績のみならず、選手を見極める目にも優れているため、このような役職にサッキ氏を迎えたことは、マドリーにとって大きな前進といえるかもしれない。
しかし、今回の視察でサッキのターゲットとなっている選手に目を向けると、私はいつものように、マドリーの補強の妥当性について、疑問を覚えた。

候補に挙がっているのは、3人。ローマのデ・ロッシ(MF・イタリア代表)、マンシーニ(MF・ブラジル)、そして、先日この記事でもご紹介したボローニャのムラド・メグニ(FW・フランス)。
メグニについては、年齢も若く、マドリーの前線の選手の後継者としてはまずまずの選択ではないかと思う。

しかし、デ・ロッシやマンシーニについてはどうだろうか。
デ・ロッシは、ピボーテである。ボールキープに優れているものの、タイプとしては、攻撃参加を得意とし、FWの背後からミドルシュートも打つ攻撃型ピボーテである。
同様に、マンシーニも、二列目からのゴール前への飛び出しが得意な中盤の選手である。

一方、今のマドリーに必要と思われるのは、攻撃性に優れた選手ではなく、守備的特長を持つ選手と思われる。
攻撃センスのある守備的ポジションの選手は、有り余るほど在籍しているからだ。

デ・ロッシとマンシーニがいくら優れた選手でも、マドリーの需要に合わなければ、お互いにとって幸せとはいえない。攻撃的な選手の供給過剰により、辛い思いを引きずって、マドリーを後にした選手はたくさんいるからだ。

いくらセンスの良いバイヤー(統括ディレクター)を迎えようとも、欲しいものが超高級ブランド品から、趣味の良い手ごろな価格のブランド品に変わっただけで、マドリーの攻撃ブランド依存体質は変わっていないように思える。
もう少し、お店(チーム)の状態とお客(ファン)の声を見極めた選手選びをしてほしいものである。
by kobo_natsu | 2005-02-12 14:15 | ニュース